例えば、電柱の碍子だったり、コンセントのプラグだったり・・・そこに、陶磁器が使われていることをご存知だろうか?お茶碗や花瓶など、私たちに馴染みの深い陶磁器が、もっと密接に、欠くことのできない存在として、私たちの生活と結びついていることを。
「絶縁物で、錆びない、熱に強い、磨耗しにくい。そこが、陶磁器の最大の利点です。」
昭和56年に西村陶業を継いだ三代目、西村嘉夫さんは言う。小さい頃から家業を手伝ってきた西村さんにとって、継ぐことはあまりにも当たり前のことで、特に意識はしなかったという。
「作ること自体が楽しかったんですよ。私らの作るもんはね、電子レンジの1パーツやったり、自動車の小さな部品やったりで、“何かの部品”という一部分でしかないでしょ。どこに使うのか、用途がわからないものが多いんですよ。だから、若い頃は、作ったものがどのように役立っているのか、という興味よりも、その部品をいかに、美しくひずみなく作れるのかが、最大の目標だったし、楽しい作業でした。」
結局は、それがものづくりの基本だ。西村さんは自然にそれを身につけていたのかもしれない。
西村陶業の作る陶磁器は、“セラミック”や“ファインセラミック”と呼ばれている。原料を調合し、成形し、焼くという大まかな基本は、変わらない。
ただ、原料の精製度合いが格段に高いのである。天然の土で味を出す一般陶磁器とは違って、セラミックは、不純物を一切取り除き、強度と絶縁性を高める。
「工程の殆どが機械化されてますけど、最終チェックや微調整は今も人の手が必要です。いくら時代が進んでも、求められるのは、手の器用さとセンスのある人間なんです。」
時代とともに変化していくのは、製品だ。電柱の碍子中心だった創業当初から、現在は、半導体などの精密機器、医療関係、食品関係など幅広い分野でセラミックの需要がある。
「私らは受注生産が中心。“こんなん作れるか?というところが、スタートなんです。」
あらゆる要求に対応していくことから生まれる製品たち。何かの部品でしかない存在は、されど、なくてはならない存在でもある。改めて、手に取って見る。それらは、滑らかで美しく、誇らしげに輝いていた。
私らの仕事は、簡単に言うと“部品屋”です。千単位とか、万単位とか、大量に作ることが多い分野です。そこで忘れたらあかんのは、手を抜くことなく、同じやり方で同じものを、きちっと作ることです。
1,000分の1個でも、10,000分の1個でも、“1個のもの”であることには変わらない。それができて初めて、部品屋は成り立つんやと思っています。