有岡進さんの作陶の原点は、人形製作に携わっていた祖父の存在にあるという。
「祖父は、私が生まれる前には、博多人形師として幾人かの弟子を持ち仕事をしていたそうです。私が生まれた当時は、祖父、祖母と叔母3人で陶人形を作っておりました。父親はサラリーマンでしたが、一つ家に私の家族5人と、祖父、祖母、叔母で暮らしていたので、家内工業的に陶人形製作が家の中で繰り広げられていたんです。いつもそばに粘土がありましたから、私は物心ついたときから、粘土を遊び道具にしていました」
粘土だけでなく、叔父からプレゼントされた子ども用の大工道具セットを使って、工作も楽しんでいた有岡さん。何よりうれしかったのは、祖父が有岡さんの作るものは何でも、褒めてくれたことだった。
「“面白いもん作ったな”って、いつも褒めてくれるんです。批判されたことなんてただ一度もありませんでしたね。祖父に褒められるのが楽しみで、次は何を見せようかって、夢中になって作っていました」
そんな祖父の温かく見守る心が、有岡さんが作陶の道へと進ませたのだろう。技術こそ教わらなかったが、かけがえのない「作る喜び」を教えてくれたのは祖父だったからだ。
「面白いと思えばなんでも作る。私がジャンルにこだわらず作るのは、そういう風に育てられたからなんでしょうね」
有岡さんの作品には、作るときに感じる面白さや胸の高鳴りをそのまま閉じ込めたよう
な、遊び心がある。「人を驚かせたり、楽しませたりできるような作品を作りたい」という気持ちがイメージとなり、陶器のパズルだったりオブジェだったり、笛や食器へと様々に姿を変えて、現れるのだ。なかでも、有岡さんが40年近く続けているという、練り込み技法による作品は、想像力をさらに豊かにしてくれるという。
「この模様を作りたいと思って作っていると、そのなかからまたいくつかの面白い模様が
できてくる。それが永遠に繰り返されている感じで、魅力は尽きないですね」
色土を幾層にも重ね合わせて作る練り込みの過程は、気の遠くなるような時間を経るが、その中でまた、新たな着想を生み出す。有岡さんの想像力もまた尽きることなく、見る者を楽しませてくれるだろう。
40年近くもの長い間、土と向き合っていると、土の長所も短所もある程度分かるようになってきますし、問題が出てきても対処法が見つかるようにもなります。しかし、土には飽きない魅力があります。二度と同じものが作れなかったり、作っている内に新たに作りたいものが頭に浮かんできたりする…そんなところが、土の飽ききれない魅力なのだと思います。