窯元、作家による多彩な陶器が集まる清水焼団地。産地として、好みの陶器を目当てに訪れる陶器ファンが多いなかで、もう一つ、足を運ぶ目的として、幅広い年齢層に支持されているのが制作体験。「コトブキ陶春」は、昭和36年に五条坂から山科の地へ移転して以来、数えきれないほどの体験者を受け入れてきた。
「陶器は食べもんと違って、作った後も形が残るもんです。作品を飾ったり、実際に使ったりして、触れる度ごとに、何度もその時の思い出を蘇らせることができる。そんな思い出作りの手伝いをできることが、何より嬉しいですね。」
若林寿一さんは、体験の魅力をそう語ってくれた。体験自体は先代のアイデアだが、絵付けのみだったコースに、5年前、若林さんは「手びねり体験」を加え、人気を博している。なるほど、まっさらの土から、形を作り上げていく過程は貴重な思い出だ。そこがいかにも若林さんらしい発想で、微笑ましい。
体験は、10分間の製作工程実演見学の後、「絵付け」と「手びねり」の2コースから選ぶこ
とができる。
絵付けコースは、体験時間が約40分から50分という手軽さと、最大600名が参加可能とあって修学旅行生に人気。マグカップ、花瓶、丸皿、ぐい呑みなど、種類も豊富なのも魅力だ。
じっくり時間をかけて取り組みたい人におすすめなのが、「手びねり」体験。手廻しロクロを用いて、“紐つくり”という手法を用いて形に仕上げていく。菓子皿、小鉢、オブジェ、飾り皿と、何を作るかは自由。なかには、お子さんの手形を取って、記念皿にする家族連れもいる。
また、こういうのが作りたい!と頭で描いても、思い通りの形になるかは、プロでない限り、やはり難しい。そんな時に、心強いのが、常に傍について指導に当たってくれる職人さんの存在。アドバイスを受けて、理想の形に近づけていきたい。
「作るからには使って欲しいですしね。陶器は使ってなんぼやと思ってますから、納得のいく作品を、完成させてもらいたいです。」
とはいえ、出来不出来は二の次かもしれない。一番大切なのは、陶器作りに奮闘した記憶なのだろう。
最近、陶器の他でも、和菓子や染めといった伝統工芸を体験できるスポットが増えています。その人気の陰で、産業としては衰退しつつあるのも事実です。伝統工芸というのは、本来難しいものです。一子相伝で伝わり、技を磨きつづけ、習い続けて、やっとモノになるかどうかの世界です。それをほんの一部でも、体験によって、触れることができるのは大事な思い出となるでしょう。体験を通して、職人や伝統工芸品について何か感じ取ってもらえると嬉しく思います。