「我々の世界は、製作物が表に出てくることはありません。ですが、世の中の製品の9割近くのパーツは、我々のような中小企業の手によって作られています。プレス加工、金属加工、精密加工など様々な加工業者の技術の寄せ集めで、一つの製品が完成する。全てのものはそんな業界の集まりから生まれていると言っても過言ではないんですよ」
金山精機製作所代表取締役社長の金山隆さんは、こう力を込める。窯元が軒を連ねる清水焼団地において、精密加工を行う同社は異色の存在のように感じるが、もともと祖父の代は一般食器を手掛ける窯元であった。金山さんの父親である二代目が窯業技術を生かして、セラミック加工へと転換。現会長の得意とする金属加工技術も取り入れて、紡績パーツでは島津製作所を取引先とするなど、工業分野への転身を遂げたのだ。現在は、さらに金属加工技術を発展させ、半導体製造設備部品、パワーデバイス関連部品といった精密機器が主軸となっている。平成20年度には、同社の技術力が高く評価され、京都中小企業優秀技術賞を受賞している。
金山さん自身、技術畑を歩いてきた人物ではない。趣味のマリンスポーツが高じて、ヨットやモーターボートなどの販売店の営業マンを経験して、継いだ家業だった。3年間で技術を習得した後、営業マン時代の経験を生かして、家業にも営業活動を取り込んだ。精密加工分野へのシフトは、金山さんが会社周りをしながら時代の風を感じた上で決断したことでもあったという。
「かつての主力商品が斜陽化するのは明らかでした。そんな頃、金属加工分野は半導体関連でより精度の高い製品が求められるようになってきていました。時代の流れに沿うには、そちらに力を入れるしかないと考えたんです」
精密機器分野は、千分の1ミリ、1万分の1ミリ単位で、部品の平面度や平行度が要求されるような世界だ。今までの加工技術では通用しないため、それに見合った機械や技術を新たに開拓していかなければならない。平成9年に同社が取り組んだナノレベルでの超精密鏡面加工の開発までの期間はおよそ5年。それまでは、試行錯誤の連続であったという。
「機械も揃えて技術を身につけましたがうまくいかなかったんです。何年も悩んでようやく気付いたのが、空中を浮遊している物が製品に悪さをすることがわかり、それらを取り除く対策を取り、苦労が実を結んだんです」
そんな生みの苦しみを幾度となく味わった超精密鏡面加工だが、成功すると様々な需要を生み出した。「その前の工程も併せてやってくれないか」という要望があったり、「こういう製品を磨けないか」と持ち込みで相談にくる業者があったりと、鏡面加工を中心にして仕事の範囲が一挙に広がったのだ。
「コアになる技術が確立されれば、仕事は広がっていくんです。しかし、一度完成された技術は、必ず追随する業者が登場します。それがさらに進むと、どこでもできる仕事になって、価格競争に巻き込まれ、さらには東南アジア、中国、ベトナムといった人件費の安いところへ仕事を取られてしまう。私はそうならないように、一つの技術が完成したら、また新たな展開を考えています。勝ち残っていくには、独自の技術力を磨き続けるしかないんです」
現在、同社の主力商品の一つであるパワーデバイス関連商品の開発は足かけ7年だという。そんな地道な努力が、誰もできない技術を生み出していく。
「何回も挫折しかけますよ。でも、それが軌道に乗って、会社の大黒柱になることがあります。それが世の中の役に立つことになると思えば、やりがいになりますね」
私が社長に就任した時、「誠実」「友愛」「情熱」という言葉を三本柱に社是を作りました。そのなかで最も大切にしているのは「誠実」という言葉です。お客さんのニーズを的確にとらえて、要求されることを独自技術を駆使して実現していく。その根本にあるのが、「誠実」という言葉です。安かろう悪かろうでは、二度と注文がきませんし、納期を守らなければお客さんに迷惑をかけてしまいます。どんなに難関があっても諦めずに乗り越える。そういった誠実な姿勢を続けていくことが高品質な製品を生み出すことにつながり、さらには会社の成長につながっていくと確信しています。