作家滝口和男氏の作品を集めた「たきぐち」が、卸売の店舗を一般向けにリニューアルする。2010年12月頃をめどに「ブライトストーン」という店名にて清水焼団地に本格オープン予定だ。町家の落ち着いた佇まいには茶室が備えられており、店主の滝口こうへいさんは「お茶でも飲みながら、お客さんにはゆっくり買い物をしてもらいたい」と語る。
滝口さんは、和男氏の長男として生まれた。小さい頃から父親の作品が普段使いの食器だった。作品として世に出ない、一部に欠けが見られるものや焼きが甘い器を日常に使い、父親の作品を当たり前に在るものとして感じ取っていた。
「他にすることがないなら、手伝えへんか」という父の言葉に促されるようにして、専門学校を卒業後、滝口さんは陶器の世界へと進む。作品の売り手として卸売業務に携わるなかで、最初は父の作品を商品として意識することに戸惑いがあったという。
「自分のなかで当たり前にあるものを売る、という感覚が最初はつかめませんでした。他の産地の焼きものを見て、違いを探していくうちに、改めて父のオリジナリティーを徐々に感じるようになったんです。同じものは存在しないという違いが魅力で、商品の売りになると」。
その魅力を武器に滝口さんは現在、関東方面にも滝口作品を広めようと力を注いでいる。
「店主さんの趣向や地域性で好みも違ってきます。どんな商品が望まれているかは、店主さん次第です。自分自身が作品の評価を決めるのではなく、あくまで客観的に商品を見つめることが大切なんですね」。
自身が商品の評価を決めないという客観性は、父親和男氏に対しても貫かれている。
「父は毎回ガラッと作風を変えてくる。その個性を奪わないためにもまず、自由に作ってもらうようにしています。それを売りに出して、仮に売れなければ、その既成事実から、作風を変えてもらう。パーツをアレンジしたり、焼き直しをしたりして、売れる商品へと変えていくようにしています」。
売れ行きによって柔軟に対応するという和男氏のスタイルも、滝口さんが売り手として関わるようになってから築かれたものだ。
「以前は、作り込んで、完成品のみを出していたと思います。でも今は、アレンジできる余裕を商品に設けてくれている。父自身が円くなったのかわかりませんが、父親のアレンジできる技量を信頼していますから、売る側もやりやすい」。
親子二人三脚。二人の信頼のなかで、また新たな商品が生まれていく。
新たにオープンする清水焼団地のお店は、お客さんにゆっくり選んでもらうような空間にこだわりました。陶器は趣味の世界ですから、こちらの価値観を押しつけても、買ってくれと頼んでも買ってもらえるわけではありません。セールストークよりも、お客さんが選ぶのに居心地のいいスペースを心がけることが大切だと思っています。
来ていただく方が、1日数組でもかまいません。いつか買いたい商品だと心に残してもらえるだけでもいい。地道なことですが、まずは、一人でも多くの方に商品を好きになってもらえるようなお店づくりをしていきたいです。